【シェベルマリブワゴン】現代に美しく見事蘇った初代インターミディエイト
1965年前後、アメリカ車のラインナップにコンパクトとフルサイズの中間を埋めるべく新たにインターミディエイトが加わることとなった。そのキャラクターはリーズナブルな価格で楽しめるフルサイズの雰囲気でありワゴンはその代表だった。
特別な存在だったステーションワゴン
1964y Chevrolet Chevelle Malibu Wagon
一般にヒストリックなアメリカ車におけるプレミアムモデル、すなわち高価格モデルというと、どんなクルマを想像するだろうか?
キャデラック・エルドラド・ブロアムのような豪華なハンドメイドのスペシャル? ダッジ・マックスウェッジ・ラムチャージャーのような過激なパフォーマンスの市販ドラッグレーサー? それともインペリアル・クラウンのような非日常の塊のというべきリムジン? いずれも極めて高価なモデルであることは間違いないが、これらは誰でも気軽にディーラーで購入できる類のクルマではなかった。それでは、フツーの人がフツーに買うことができた最高価格モデルとは何だったのかというと、それは多くの車種においてステーションワゴンだったのである。
ステーションワゴンに対して、多くのアメリカ人は特別な感情を抱くことが多かった。それは簡単にいってしまうと旅への憧れだった。17世紀にアメリカ大陸にイギリスからの移民が到着して以来、人々は馬車、すなわちワゴンと共に開拓の旅に出掛けた。その記憶は数百年経っても消えることはなく、人々は自動車という新時代の乗り物におけるワゴンに、旅の記憶を重ね合わせたのである。
アメリカ車のステーションワゴンというと、ボディサイドにウッドパネルを貼ったスタイルを思い浮かべる人も多いと思うが、あれはまさに古の馬車へのオマージュであり、1930年代には当時既にオールスチールボディの技術が完成されていたのにもかかわらず、敢えてボディ後半を木製で仕立てたウッディワゴンが製造されたこととも密接に関係していた。
さて、今回紹介するのは1964年型シボレー・シェベル・マリブ4ドアステーションワゴンである。シボレーにおけるシェベルというモデルは、この年に初めて投入されたいわゆるインターミディエイトカーであり、フィッシャーAボディと称された新開発シャシーが採用されていた。ホイールベースは115インチと、先にデビューしていたコンパクトカーのシェビーⅡの110インチとインパラに代表されるフルサイズカーの119インチのちょうど中間であり、まさにインターミディエイトだった。
ここで1964年型シボレー・シェベルのラインナップとボディバリエーションを整理しておこう。まずグレードだが、ベースモデルは300、上位モデルはマリブと呼ばれていた。ボディバリエーションは300が2ドアセダン、4ドアセダン、2ドアステーションワゴン、4ドアステーションワゴンの4種。マリブは2ドアセダンがなかった代わりに2ドアスポーツクーペと2ドアコンバーチブルが追加されていた。またマリブのスポーツクーペとコンバーチブルにはSSパッケージを組み合わせることもできた。エンジンは194ciの直列6気筒、もしくは283ciのV型8気筒がそれぞれ標準仕様だったが、このほかに数種のオプションエンジンを選択することもできた。
こうしたバリエーションは当時のシボレーにおいては極めて標準的なものだった。ベースグレードと上級グレード、そしてSSの存在、多彩なオプションを組み合わせることで自由に仕様を選ぶことができたというわけである。
それでは、この年のシェベルにおける最高価格モデルは何だったのかというと、それは生産台数も少なく、見た目もインパクトがあったマリブ2ドアコンバーチブル/V8搭載ではなく、ポジション的にはあくまでファミリーカーだったマリブ4ドアステーションワゴン/V8搭載だったのである。その価格はというと2852ドル。対してコンバーチブルは2695ドル。SSの場合は161ドルのオプションコストが必要だったものの、トータルでの価格はステーションワゴンとほぼ同じだった。もちろん実際に販売されたモデルはというとパワーグライドATに167ドル、パワーステアリングに74ドルなど、さらなるオプションコストがかかっていたこともあり、とくに快適オプションアイテムがある意味必須だったステーションワゴンの価格は、場合によっては4000ドル近くにまで跳ね上がることも珍しくなかった。
こうした流れを踏まえて、今回紹介しているシェベル・マリブ・ステーションワゴンを改めて観察してみると、オリジナルが持っている大衆車ブランドのなかのプレミアムモデルというまさにファミリーカーの王道を行く。その個性をしっかりと維持しつつ、ともすれば過酷なものとなりがちな現代の日本の路上にしっかりとマッチしたものとなっているのが特徴である。
具体的に細部を見てみよう。まずエンジンはオリジナルの283から、近年のGMグッドレンチ製350クレートモーター(LM1)に換装されている。SAEネット表示で最高出力290hpのこのエンジンは、同グロス表示だった1964年当時に換算すると350hp前後は出ていたというSS用オプションだった300hp仕様の327よりも遙かにパワフルなモデルである。さらにトランスミッションはオリジナルのパワーグライド2速ATから4速のTH700 R4へと換装されている。吸気システムはエーデルブロックのキャブレターであるということを除けば、パワーユニットは1990年代の仕様に近いといって差し支えない。
これは足回りにもいえるポイントであり、コイルオーバーショックに変更されたフロントサスペンションや4輪ディスクブレーキといったスペックは現代の路上において十二分な信頼性を発揮してくれること間違いない。
一方、インテリアに目を向けてみると、そこにあるのは紛れもない1964年のシェベル・マリブである。ダッシュボード、ステアリング、シート、ドアやルーフといったトリム類、これらはほぼオリジナルが保たれており、しかもまるで新車のように美しく仕上げられている。とくにこの個体に装着されているパワーウインドーとパワーシートは、当時のシェベル・マリブにとっても高価かつレアなオプションだった。エアコンはコンプレッサーなどは最新のモノに変更されているが、インダッシュのダクト類はオリジナルであり、すなわち新車当時からエアコン装備だったということである。
エクステリアはというと、17/18インチの5スポークアルミホイールと、適度に落とされた車高を除くと、こちらもほぼオリジナルが保たれている。1964年型のシェベルは同年のフルサイズと共にフラットなフロントグリルとシンプルかつストレートなボディラインが特徴だったのだが、オリジナルをキチンと残したことで当時の雰囲気がしっかりと生かされている。これはサイドモールやエンブレム、ミラーといったオリジナルディテールパーツの存在も相応の役割を果たしていることはいうまでもない。
このクルマが新車で生を受けた1964年当時、わが日本にもステーションワゴンというカテゴリーは存在しており、それはアメリカに範を取った上級グレードという位置付けではあったものの、多くの車種においてボディシェルを共用する商用車のバンが存在したことで、その固有の存在意義が広く浸透するまでには至らなかった。
ステーションワゴンとは商用車ではなく、乗用車のプレミアムモデルであるという価値観が広く知れ渡る様になったのは1990年代に入ってからのことである。そして現代、そのお手本というべき1960年代のステーションワゴンこそが改めて価値を持つことは言うまでもない。それはこのクルマが持つ揺るぎない存在感からもしっかりと理解できるポイントでもある。
クロームが美しいバンパーはこうして見ると十分に大きかった。基本的には質素な方のデザインだったものの、この固体にはオプションだったオーバーライダーが装着されている。ウインカーランプのサイズと位置もオーソドックス。
三角窓はこの時代の必須品。助手席側サイドミラーはオプションであり装着車は少なかった。ドアを開けるとその下、スカッフプレートにはマリブのロゴが。こうした部分のデザイン処理は現代にも引き継がれている。
テールランプ本体、リフレクター、バックアップランプで構成されたテールランプユニットは、フルサイズなどと比較するとかなり簡素化されていたといって良いだろう。そして逆にそれが個性となっていた。
テールゲートはまずリアウインドーを開けてからゲート本体を開くタイプ。ゲート自体はちょっとした腰掛け兼モノ置きのスペースにもなった。ここに座ってランチなどするのも、アメリカンステーションワゴンライフの醍醐味でもあった。
GMグッドレンチ製のLM1クレートモーター。いわゆる350スモールブロックのリプレイス用ユニットのなかでは実用性を重視した仕様。とはいえ過去のスペックに照らすと相応にパワフルである。オルタネーターやエアコンコンプレッサーといった補機類は最新のものとなっている。現代の路上にマッチしたキャブ仕様ユニットであり、信頼性的にも十分。
メーターパネル上部のソフトパッドはオプション品であり、この頃から高まってきた安全に対するユーザー意識に応えたものだった。3連のゲージとアルミトリムのメーターパネルは各種スイッチ類も含めてフルオリジナルである。チルト機構が付いたステアリングコラムも当時としてはまだ珍しいオプション品だった。上部にアンチグレアのスモークが入ったティンテッドウインドシールドも当時の純正オプション品である。
非常に凝ったデザインのルームランプ。この辺りのデザイン処理は1950年代の香りを残している。ビニールレーザーオンリーがほとんどだったこの時代、クロスとのコンビネーションかつパワー機構がついたシートは高価かつレアなオプションだった。ラゲッジルーム内の3列目のシートは後ろ向きに座るのがアメリカ流。サイズ的に子供用だが大人もOK。
取材協力/オレンジカウンティ
TEL:0561-64-3888
http://www.orange-county4u.com/
解説/矢吹明紀
http://ameblo.jp/akiyabuki/
写真/浅井岳男
アメ車マガジン 2024年3月号掲載
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