数値じゃ語れない肌で感じるマッスルカーの大本命【1968 フォードマスタングGT】
1960年代後半はアメ車全般的に排気量が大きくなり、ビッグブロックを積んだモデルが続々とリリースされたマッスルカーの黄金時代。当時の大本命と言えば390ci(6.4ℓ)のビッグブロックエンジンではあるが、289ci(4.7ℓ)搭載の現車も実に味わい深いマッスルカーとして称賛されるべきモデルだ。
THRILL RIDES
半世紀も経過すると排気量云々だけじゃ語れない
1968 FORD MUSTANG GT
マッスルカーの定義は割と曖昧で、線引きはある意味グレーゾーン。「これはマッスルカーでそれはマッスルカーじゃない!」なんて議論もある意味個々の捉え方によって様々なので、ここでそれを明確にするつもりはない。
マスタングに関して言えば、一般的にハイパフォーマンス化のあおりを受けてFEブロックと呼ばれるビッグブロックの搭載が始まった67年以降のモデルがそれに当たるとされているが、ル・マンで名を馳せたキャロルシェルビーに製作を依頼したGT350のベースは紹介する個体と同じ289ciエンジン。
ちなみにGT500は67年モデルの390ciエンジンをベースに製作。馬力上の数値や排気量の大きさだけを語るとすれば、GT350やGT500、さらには68年に誕生したコブラジェット搭載の428に敵わないが、半世紀を過ぎた昨今、現行モデルのマッスルカーに太刀打ちなどできるはずもなく、ビンテージマッスルカーとしては、そんな数値に囚われるのではなく、むしろコンディションの良し悪しを見極めることが大切である。
紹介するマスタングファストバックは1968年型で3年前に本国より日本へ持ち込んだ車両。搭載されるエンジンは289ciではあるが、整備やメンテナンスが徹底されていることもあり、撮影時は軽くアクセルを踏み込むだけでホイールスピンするレベル。この手のモデルにありがちなセルを回した時の燻り感もほとんどなく、一度エンジンに火を入れるや否やアグレッシブな走りを魅せる。実際撮影場所で軽く走ってもらった時もクィックな挙動で軽快に走り抜ける様を目の当たりにした。
ちなみにこの個体、オリジナル重視に見えて実はリアタイヤのみ太めのセッティングとなっている。割とオリジナルに忠実なタイヤ設定のマスタングが多い中で、この個体がマッスルカーらしさを色濃く感じさせるアクセントとして、タイヤのトレッド幅は大きく貢献している。バーンナウトで砂埃を巻き上げる姿もこのタイヤサイズだからこそ絵になる。
4速マニュアルで軽快な加速感、そして整備が行き届いた安心感をもたらす68年型のマスタングファストバック。現在ナオキモータービルドでペインレスフルハーネスへの引き直し作業やビンテージエアーの追加を行なっており、より一層の快適仕様を目指してアップデート中。
ヘダースやフローマスターでダイレクトなエギゾーストサウンドを奏でるマフラーからのアプローチ、そして大きなウッドステアリングから伝わる振動、リア側に少々太めのサイズをセットしたBFグッドリッチラジアルT/Aから伝わってくる動力、そのどれもが数値的な物差しでは測りきれないダイレクトな刺激。この刺激こそ、マッスルカーの醍醐味ではないだろうか。
真横から見ると明らかにリア側のタイヤが太いことが一目瞭然。この履きこなしがジェントルなマスタングファストバックのフォルムにスパルタンな刺激をプラスする。リアフェンダーのボリューム感も60 年代のマッスルカーらしくて素敵!
半世紀前のモデルでも新品パーツが出るところがアメリカンビンテージカーの良さ。エンブレムやクロームのトリム、アイアンバンパーを始め、くすみ一つない煌びやかさも極上ボディか否かを左右する重要なアクセントとなる。
搭載されるエンジンは289ci。上級モデルには、より大排気量でトルクフル、ハイパフォーマンスな物も存在するが、いくら排気量が大きくてもそれ相応の整備やメンテナンスが疎かでは本末転倒。4MTで加速感を噛みしめながら当時らしいエギゾーストサウンドを奏でて走らせてこそ、ビンテージマッスル本来の良さを味わえる。ホイールスピンやバーンアウトが当たり前に楽しめるのは、コンディションが良い証拠だ。
ダッシュ周りやシート、内貼りはオリジナル重視で大きな変更を加えていない。ペダル中央のブレーキペダルにはディスクブレーキと記載されたプレートをあしらう。ドラムブレーキが大半だった当時、ディスクブレーキ採用も一つのステイタスとして存在していた名残ではあるが、こうした装飾のひとつひとつが、良い状態で残っていることも、その個体が大切に扱われてきたか否かをジャッジする大事な部分だ。
THANKS:ナオキモータービルド【Naoki Motor Build】
TEL:072-236-7300
https://naoki-mb.co.jp
PHOTO&TEXT:石井秋良
アメ車マガジン 2022年11月号掲載
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